生まれたばかりの夏が、力強く日本を支配しています。しかし、まばゆい陽光の所々に、透明で冷たい異質の光の結晶が見られます。吹き抜けてゆく熱い風の中に、どことなく冷たい息吹が混じっているのが感じられます。
それは秋の気配です。我々がこの世に生を受けたその瞬間に、すでに死が我々を蝕み始めているように、生まれたばかりの夏のさなかに、すでに秋が目醒め、やがて自分が支配するこの世界を静かに見渡しているのです。
この世の営みの無常さを、ぼくはこの時期、もっとも強く感じます。もっとも力強い季節の中に、もっとも顕著にその滅びを察知してしまうからです。
しかし、そのはかなさが、この季節を、より美しく、よりいとおしいものにしています。生きとし生けるものすべてが、滅びの宿命を背負いつつも、それを徒に嘆いたりすることなく、陽光と同様に、輝かしく、力強く生を謳歌しています。ただ人間のみが、暑いの、うっとうしいのと、文句や泣き言を垂れています。
秋の王国が支配を確立した時、我々は、豊かな実りを実感できるでしょうか? 精いっぱい生きたと言い切れるでしょうか? 夏はやがて過ぎ去ります。そして人生もまた…。「今」の貴重さ、美しさを、我々はもっとよく考え、もっとよく感じるべきでしょう。