2017年9月20日水曜日

冬山テント大爆発!




 かなり以前のことです。完全実話です。

 ある年の大晦日、ぼくは2人の山仲間とともに、標高1000メートルちょいの山に登りました。雪山で年を越そうというロマンあふれる企画でした。

 順調に頂上を極め、少し下って雪の上にテントを張りました。それまで主流だった三角テントに代わって普及し始めたばかりのドームテントでした。

 テントに入ると、さっそく大宴会を始めました。忘年会からそのまま新年会になだれ込むという壮大な計画でした。

 もちろん、たいした料理はありません。落花生、チーズ、スルメ、ホタテの紐の干物、チクワ、ポテトチップス等がメイン料理です。貧相だと思われるかもしれませんが、テント内では十分なご馳走です。山の澄んだ大気がそれらに魔法をかけ、この上なく美味に感じさせ、最高に豊かな気分にさせてくれます。

 テントの外では雪がチラチラと舞い、結構寒いのですが、テント内ではガソリンコンロが楽しげにさえずりながら心地よい暖気を吐き出しています。その唄に合わせてキャンドルの炎が魅惑的なダンスを披露しています。そしてビールを理想的な温度に冷やす雪に不自由はしません。

 我々は楽しく宴会を続けていましたが、しばらくしてちょっとした問題が持ちあがりました。酒が足りなくなってきたのです。     解決策はただひとつ。誰かが買いに行くことです。

 幸い、酔っぱらいの足でも15分ほどの所に山小屋があり、そこで武力行使なしで酒の補充が可能でした。

 世にも麗しき犠牲精神の持ち主であるぼくが、この大任を引き受けました。

 ところで、酒が足りなくなるというトラブルの前に、実はもうひとつのトラブルに我々は見舞われていたのです。

 我々は、各自、ヘッドランプを1個ずつ持参していました。当時、その光源はまだLEDではなく、豆電球でした。そして2人は予備の豆電球を1個ずつ持っていました。豆電球はLED と違い、よく球切れを起こすのです。

 どういうわけか、この日、その球切れが続発し、ひと晩のうちに3個の豆電球がおシャカになっていたのでした。

 この球切れブームが買い出しの道中でも続いたら危険なことになります。月もない山の夜道は真の闇なのですから。で、ぼくは残ったヘッドランプを2個とも持って行くことにしました。テント内はキャンドルがあるので不自由はありません(ないはずでした)。財布も忘れずに持ち、いざ出陣!

 さて、ぼくが出発してほどなく、テント内で気持ちよくさえずっていたガソリンコンロが、あえぐような声を出し始めました。これはトラブルではなく、単なるガス欠です。で、ひとりがガソリンの注入にかかりました。

 引火を防ぐため、キャンドルに背を向け、テントの隅に寄り、さらに換気のため出入り口を開け、ガソリン容器からコンロにガソリンを注ぎ始めました。が、ヘッドランプがなく手元が暗がりだったため、彼は、ガソリンが注入口からこぼれ、テント内に小さな川を作っていることに全く気付きませんでした。

 その時、一陣の風がテント内に吹き込み、キャンドルの炎を吹き消してしまいました。で、もうひとりが、キャンドルに再点火しようとしてライターを取り出し「カチッ」と着火しました。その瞬間…

 どっか〜ん!

 ……ぼくは、無事に任務を終え、酒を両手にぶら下げ、千鳥足でテントに戻ってきました。さあ、飲みなおすぞ〜! でも、戻って目にした光景はといえば…

 テントはグシャグシャにひしゃげ、しかも大小の穴だらけでした。そしてふたりの仲間はテントの外でうずくまっていました。先ほどまでふたりの頭髪はごく普通のストレートだったのですが、今はふたりとも見事なパンチパーマとなっていました。あちこちに火傷を負っていましたが、幸い軽度で、病院での治療は必要のない程度でした。

 ふたりは爆発の次の瞬間、開けていた出入り口から飛び出し、ひとりがテント内の火を消すため上からのしかかってテントを押し潰したのでした。この一連の判断と速やかな行動が良かったため、負傷も軽く済み、また、すべての装備が丸焼けとなることを免れたのでした。

 飲み直すという雰囲気は吹っ飛んでしまいました。折れたり曲がったりしたテントのポールをできる限り修復し、なんとか中に入れる状態にして、テント内を片付けると、シュラフ(寝袋)にくるまって早々に寝る段取りとなりました。

 その頃から、雪が本格的に降り始め、テントの穴からシュラフに積もってゆきました。    冷たかった。

 翌日、スゴスゴと下山しました。帰りの電車内は元旦らしく着飾った晴れやかな表情の人たちでいっぱいでした。その中で、あちこち焦げ目のついたニッカボッカでパンチパーマのふたりは、結構注目を集めていました。

 さて、この話から学ぶべき教訓の第1は、もちろん

「山で宴会をするならば酒はたっぷり用意するべし」

 ですよね…





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